辻中俊樹のエスノグラフィーマーケティング② ウナギとハーゲンダッツをマーケティングしてみると…。

<暮らし>リズムマーケティングセミナーでの発言を抜粋してお届けします。2018年7月に『8月と12月の秘密 -行動スイッチがオンになるシーンをつかむ-というタイトルで行われたものを3回に分けてご紹介します。今回はその第2回目です。

〈4〉ウナギをマーケティングとしてみると・・・・。

まもなく、7月の土用の丑の日ですけれども絶対ウナギ食うぞと思ってる人いますか?去年食べた人は?今日の参加者の中では、それでも3割弱といったところですが、僕、この5年間うなぎ食べてないです。高いし。 一人4000円、夫婦で食べても1万円でしょ。やっぱり家計消費支出調査を見ても落ちてるんです。10年前は1600億円ぐらいあった家庭内市場です。これが大体6割近くに減少している。でも7月だけ見ると全然減っていない。ウナギに対する消費支出というのは、ずっと横ばい。どういうことかと思っていたら、これは実に簡単な話で、家計消費支出というのは実によく出来ていて、頻度というのがある、それを見ていると10年前は 同じ家計消費金額なんだけれども65%ぐらいの人たちがうなぎを食べている。今はそれが半分くらいになってきている、だから3割ぐらいの筋金入りのウナギファンという人がいる。そういう人は、7月になったら意地でも食べるぞと思っている。1回はね。

大したファンでもない奴はこんな高いもの食べなくていいわと言って離脱している。だから、35%の人達の市場になっている 。

ウナギは、7月だけで1年間の5割ぐらい近くが消費されている。だからウナギは7月にしか需要がないと言ってもいいぐらい。土用の丑の日にウナギを食うと言う文化もよくわからない。平賀源内がなんとかといったエピソードがあるようだけど、あれで土用の丑の日に食べるということになっている。けれども、以前、一緒に仕事をしたことのある、九州のウナギの専門家に言わせると、夏場のウナギは一番脂が落ちていてまずいと。一番美味しいのは秋口から冬にかけてで、土用の丑の日に食べる江戸っ子なんて言ってるのは、馬鹿だねと言っていた。

でも、ならせば、7月以外に食べてる人ももちろんいる。何のために食べてんのかよくわかんない。よっぽど好きなのかなと思っていた。でも、12月29日30日31日ぐらいでウナギの消費が上がっているんです、買ってる人がいるのです。これはご馳走という事です。多分「ひつまぶし」でしょうね、うな重なんかは食べてないと思う。それは理にかなっていると思うし、実際にネット検索でも、この時期ウナギというキーワードが上がってくるんです。「気になる」というスイッチが入っているということですね。何らかの。

ちなみに、おじいちゃんおばあちゃんはうなぎ食べた方がいいんです。介護施設に行くと12月とお正月にうなぎが出てくるところがある。先ほど、個人としての肌感覚を大事にしたほうがいいと言ったけれども、それだけを大事にしていると間違うこともあるので要注意ですが、最近女房と二人でご飯を食べていると本当に野菜ばっかり出てくる。たまに、そこに肉片が混ざってくるという程度。実際、あんまり動物性タンパクを食べたいと思わない、年をとったからどうこうと言うのはやっぱり当たっている。でも、これは体に悪いそうです。年寄になったらより動物性タンパクを食べなさいと、菜食は体に悪いからやめろと、医者から言われた。ウナギというのは、最低限の動物性タンパク、これが7月の土用の丑の日以外のうなぎを食べるというチャンスですね。

だから、もし、ウナギのマーケティングを頼まれたら土用の丑の日からウナギを解放するというマーケティングを、私はやると思う。でも抵抗勢力というのは5割いて、ここで食べなきゃ許さんという人もいるでしょうね。ともかく、統計数理学的に整理されたデータを見ていくと、そういうことも仮説としては成り立つんですね。

〈5〉12月のハーゲンダッツ

生態気象学の常磐先生が、今日はいらっしゃってます。常盤さんの研究によると、気温は25°を超えるとアイスが売れるんだそうです。そういうデータがあって、僕は大変参考になっていて、でもそれだけではないんじゃないんですか?と時々いじめてあげるんですが(笑)。特に常盤さんの言葉で言うと「昇温期」、これは気温が日々上がっていく時期ですね。この時期は20度でも体感としては25度ぐらいに感じる。逆に9月あたりは「降温期」なので20度近くでもぐっと涼しく感じる事もある。夏に向かって25度を超えてくるとアイスが食べたい。30度を超えて真夏日になるとアイスではなくて氷菓が食べたいとなる。例えば、明治とか森永が出したアイスが売れなくなってくる。こういった時に一番よく売れているのが「サクレ」ね。あれは本当に美味しいと思う。よくあれ開発したねと思う。35度を超えたらサクレだね。特にレモンね、気分のスイッチがどんどん入っていく。

ただ、そうとばかりは言えないこともある。それが例えばハーゲンダッツ。基本的に、乳脂肪分の高いアイスは温度帯が上がっていくとダメなんです。ネットリしすぎている。じゃあ、いつ売れるんだと、寒かったらもちろん売れないし、暑くても寒くても売れないんだったらどこに行ってるんだ という話なんだけれど、実は12月には売れてるんですね。電車に乗って通勤する方はよく分かると思うけれども、12月になると電車の暖房温度が上がってくる 、その上、 12月に入って天気予報とか見ていると「寒いです」とか書いてあって、そうすると、ウールのコートを着込んだりする。その状態で暖房の温度が高い電車に乗ると汗かきます。で、大手町で降ります。そこからオフィスまで歩く。まだ暑いんですね。そうすると気持ちを変えるスイッチが入るんです。だから、地下鉄の中にハーゲンダッツの広告を入れたら絶対に効くぞと思っているんです。タッチポイントというのはモチベーションの高い時に接点を持たなければいけない。代理店の言っている タッチポイントというのは、往々にして、「タッチするかもしれない」ポイントにしか過ぎない。モチベーションが高い瞬間に情報が当たっていればこそ、タッチポイントになるんです。

だから、ニューデイズに徹底的に重点配荷をしようとか、オフィスの近くにあるコンビニに重点的に配荷する、そうするとストーリーができる。通勤経路内のコンビニで爆発的に火がつく。でも、レモンはダメだと思う(笑)ハーゲンダッツのレモンフレーバーとか出しても絶対売れてません。やっぱり「きなこあずき」だよね。あるいは「抹茶」かな。とにかく、これが僕らの言っている行動心理ということです。

冷蔵庫、冷凍庫の調査をしたことがあります。そうは言ってもWeb でアンケートとかは行ったりはしません。生活者の家庭に入って、冷凍庫開けます、冷蔵庫開けます、これはなんだと聞いていく、そうすると大体、その家の人は「私もよく分かりません」という。なんだか、干からびたものとか、よく出てくるんだけど、それを見ていると大切にしているものほど綺麗に上の方にあります。で、ハーゲンダッツは大体なんでこんなに入ってんのというぐらい入っています。しかも、冬の季節に。

極論すれば寒いというのは、どこの事を言うんだということ、今日半袖の T シャツを着てきましたけども、私は基本的に暑がりなんです。それでも、昨今の電車に乗ると寒い。じじいばばあは寒がりなんです。これは他の年代の人にはわからないだろうなぁと思います。同じくらいの世代の人はみんな言います。博報堂に行動デザイン研究所というのがあって国田さんという方がいらっしゃいます。行動スイッチと気持ちの連鎖というのを、今、彼と二人でやっていて、この前も話していた。その時にも、「電車寒くないですか」と言ったら「寒い」と言ってた。そこで、「それよりもこの会議室寒くない?」と聞いた・・・そんな感じで仕事の話を置いて、ひたすら寒い談義をしていたんですけれども・・・まあ年寄りは働いてない人が多いのでいいんですが、女性はかわいそうです。夏でも寒いです。

(この項、次回に続く)

辻中 俊樹
株式会社ショッパーファースト シニアフェロー
生活日記調査などエスノグラフィーアプローチによる生活者リサーチとユニークな解析を一貫して実施。
『マーケティングの嘘』(新潮新書)など編著書多数。