<All about eat & drink>
21年5月以降にさまざまな属性の生活者50人を対象としたオムニバス調査も実施予定です。
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暮らしのリズムの流れと、その中での喫食の実態をとらえる1つの方法が、<All about eat & drink>である。日常生活の中で何らかの意味で「口にものを運んだ」シーンを、フォトハンティングとして収集する仕組みである。2021年1月の中旬に実施したものの中から、ほんの一部を紹介しておく。
まず最初の1シートは、30代後半の女性の1/12の<All about eat &drink >である。喫食が行われるたびにそのシーンを写真とコメントで投稿アップしたものだ。子供2人がいて週に3回程度出勤しているという生活パターンだ。この日は7回の喫食シーンがあったことが“見える化”されている。もちろん、投稿忘れなどもあり、実際はもっと多頻度で喫食が行われているといえる。
1月中旬に実施したこの<All about eat & drink>のフォトハンティングは、1/12から10日間行われた。そのうちの1日を紹介しているが、この日以外の残りもほぼ6回以上の喫食シーンがあった。これがまず<6食以上>の暮らしのリズムの実態である。もちろん、30代、40代の男性をみていると、欠食が多く3~4回くらいの喫食シーンしかない場合もある。単に回数だけを問題にしているのではなく、その内容のウェイトづけが発見のポイントなのである。
この女性の1日から、見つけだしておくとよい仮説はこんなところにある。まずは、ドリンクシーンのウェイトである。飲み物を飲むということは「喉がかわいた」ということでの、止渇性という機能にとどまらずもっと重い価値を占めているのではという仮説がみえてくる。マリアージュフレールの紅茶、ほうじ茶が、いつも暮らしのそばに寄りそっている。おしゃれでかわいい保温ポットを持ち歩いている女性の多いこと、最近では男性にも広がり始めているし、この季節は当然だが夏場でもホットであることが多い。飲むシーンもまた食とシームレスになってきているのだろうし、食のオケージョンよりも健康価値が高いのではという仮説を追っていくきっかけになる。
また、朝食という時間帯であり場面であると推察できるこの日の第一食目、アップルパイと雑炊が登場する。私たちはこの場面のことを「カフェごはんスタイル」の典型の1つとみている。その中でもより簡素なスタイルといえるが、基本手作りの残り物をうまく利用している。食と間食は完全にシームレスになり一食を成立させている。お弁当もまた残り物の利用をしつつ、「カフェごはん」ぽいともいえる。いわゆる三食らしい規格がからくも成立しているのは、夕食の1回だけである。とはいえ、その内容はいわゆる一汁三菜、主食―副食が典型的に実現されているというよりも、これも「カフェごはん」に近いものだ。
次に大切な気づきを与えてくれているのが間食である。シーンとしてはいわゆる間食、おやつとしてのオケージョンそのものとはいえるが、そのアイテムの多様性である。チョコレートにバームクーヘン、そしてハリボ、高級な専門店タイプのお菓子から、いわゆる袋菓子までが混在しているのだ。加えて、クリスマスやお年賀のタイミングもあるとはいえ、とにかく「もらい物」が多く登場する。ここにはでてこないが、逆に彼女が「あげる」というシーンもよくでてくる。朝食べた手作りアップルパイは前日「あげている」のだ。
次に同じく30代の女性の1/12と1/22の2日分を紹介しておくことにする。
夫婦2人暮らし、コロナ禍もあって現在は働いていない。この2日間の暮らしのリズムをみていても、どちらも7食以上の喫食機会がある。あわせると14回の喫食チャンスが”見える化”されているが、その中で典型的な三食の規範が成立しているシーンが3回ある。テーブルセッティングや器の使い方などを含めて、この三食はごちそう感に近いところがある。ただ、朝の時間帯には食べていない朝ごはんは、残り物をうまく利用してゆっくり朝ごはんを狙ったオケージョンと価値である。だからこそ、朝ごはんの時間帯の喫食はお菓子が朝食になっている。食と間食のシームレス化の1つであり、このことで10時30分に食べた朝ごはんは、気分も中味もごちそう感覚になっているのだ。食と間食の境界線がなくなっていくことで、ごちそう感という新しい食の価値が生みだされている。それを残り物や冷凍をうまく利用しながら、自分の時間割という暮らしのリズムに位置づけているのだ。
逆に1/22のお昼のように、お昼ごはんのシーンが食と間食の境界線の崩壊が別の極点に至りつき、いわゆる間食アイテムで構成された食のあり方である。自分の暮らしのリズムによって、メリハリがうまくつけられているといってよい。同じように1/12は遅い時間にごちそう感覚の朝ごはんを食べたので、お昼ご飯は欠食して、夜までの間に3回おやつタイムが登場するのだ。これも自分の時間割という暮らしのリズムが生みだした1つのメリハリである。
その中で1回に「手作りおうちデザート」のカジュアルスタイルが登場する。缶詰のみかんと白桃を混ぜて保管したものを、フルーツポンチ風に食べているのだ。「レベルはちがうけど、近江屋のフルーツポンチ意識です」とは、いいえて妙である。
1人目の女性とも共通しているのが、間食アイテムであるお菓子類が極めて多様であることに気づく。ブルボンのアルフォートやルマンド、そして北海道物産展で買った「白い恋人」、コンビニデザートから袋菓子まで、ピンキリの登場の仕方は共通である。シャトレーゼのアイスクリームも買い置きされているし、その中には「あげたりもらったり」ということも多様に存在しているといっていい。アイテムが多様であるということは、購入場所、チャネルも多様になっていることを意味する。
さらにドリンクシーンにも共通の価値がありそうだ。この2日間は外出シーンがなかったからだが、やはり保温ポットを持ち歩いてこまめに飲むシーンが登場する。白湯、緑茶などホットであり、身体を温めることも含めて極めて健康価値、身体生理とのマッチングが意識されているといっていい。
また、この2人目の彼女にとってドリンクが食の満足度と近接化した価値を持っているようだという仮説もなりたつ。カフェオレという選択はその1つの気づきを与えてくれるポイントだ。他の人にもでてくるがタピオカドリンクやスムージーなどはその視点でみておいたおいた方がいいようだ。
もう1人、40代の男性のフォトハンティングから1つの気づきを紹介しておく。
子供2人、働いている男性だが、リモートもあって在宅シーンも土日以外に週に3割程度は出てくる。男性の1つの特性ともいえる面ではあるが、喫食回数は女性よりも減少する傾向がある。その喫食シーンの減少は、三食にあたる朝昼夕ごはんで欠食が出現するのがその理由である。いわゆる間食シーンというオケージョンはむしろ減少していないのだ。彼がこのフォトハンティング期間中に口にした間食シーンアイテムをざっと集めておいた。いわゆる流通菓子といわれているものが、ピンキリ含めて圧倒的に口に運ばれている。食と間食の境界線の崩壊は、むしろ間食の方に喫食がシフトしていくことをさし示している。
ほんの例として、<All about eat & drink>のフォトハンティングの内容を紹介したが、このように”見える化”された喫食の実態から、<6食以上>という暮らしのリズムの展開とそのディテールを仮説化していくことができる。
このような実態の共有と、その中からいくつもの気づきを見つけだし仮説を作りだしていく。50人の1週間のフォトハンティングをデータの対象にすれば、350人日の<All about eat&drink>を”見える化”することができ、6回以上の喫食機会をハンティングしていることでいえば、2000回以上の喫食チャンスから気づきと仮説を整理することができるのだ。同じ30~40代であっても男女というセグメントの差はあるのか、共通性は当然ながら存在しているのか、60代以上のシニア層では暮らしのリズムの違いによる差はあるのか。そんなことをさらに深堀りしていくことがこの<All about eat & drink>を通して可能なのである。
辻中 俊樹
株式会社ショッパーファースト シニアフェロー
生活日記調査などエスノグラフィーアプローチによる生活者リサーチとユニークな解析を一貫して実施。
『マーケティングの嘘』(新潮新書)など編著書多数。