排除されない店づくりのために

スーパーの最大の強みは「生鮮食品」、とりわけ他業態では扱いの難しい「魚介類」の差別化が注目されて久しい。生活習慣病予防にも効果の高いDHAやEPAを含み、タンパク質の摂取効果の高い「魚介類」は食材として注目されている。ただし、日常の食卓に乗せるには、「知識」「技術」「環境」「時間」「予算」など多重の課題があり、ハードルの高い商材であることも確かである。これを解決するために、「魚総菜」の研究会を立ち上げ、日々取り組むスーパーの躍進の噂も耳にする。以前、総菜・弁当の差別化を目指す地方スーパーの総菜売場に早朝から深夜まで張り込み、売場を訪れる多様な生活者への聞き取り調査を実施したことがある。コンビニよりも安く手に入る特売おにぎりだけを目当てに来店するチェリーピッカーの若者から、夕食と翌日の朝食の二食を支える鮭弁当を目的に来店する独居高齢者、家族それぞれが好きな弁当を選んでファミレスよりもコスパのよい休日のランチを愉しもうという子供連れファミリーなど、さまざまなニーズを満たしていた。中でも魚総菜を目的に来店する男性客のコメントが印象に残る。「子供が多いと魚を焼くだけでも一度に焼くことができず、家に臭いがつくので妻が嫌がる。煮魚は技術がいるし、魚の総菜が充実しているこの店は、来店の大きなモチベーションになっている。」

ところで、過去5年間のSCIの「品目別100人金額」と「スーパー購入構成比」の推移の中で、「魚介類缶詰」の購入金額24%増の躍進が注目される。これは、「魚介類」で他業態との差別化を図ろうとしているスーパーにとっては大きな脅威といえよう。食品購入チャネルとしてますます存在感を増すドラッグストアやコンビニ、ディスカウントストアでも容易に目玉商材となるからだ。

ポストミレニアルといわれる24歳以下の若者の食品購入における価値観はますます「低価格志向」が進み、それ以前の世代と比べ、変化の兆しをみせている。ライフステージの変化に伴い、彼らの価値観も徐々に変化していくとも考えられるが、社会人デビューの頃の原体験は後々の生活行動に大きな影響を及ぼす。スーパーが今後生き残っていくためには、こうした生活者の多様化や価値観の変化にも対応していかなければならない。特に彼らがスーパーにこだわらず、価格の低い店舗を見つけ、利用する傾向があることは看過できない。

首都圏、地方に関わらず、生活者ひとりが日常的に食品購入のために利用する店舗数は平均で3店舗を超える。最頻利用の一番店になることは重要であるが、立地や店舗規模によるところが大きい。一番店になるための要件は多いが、少なくとも持ち駒のひとつに入っておくためには、最低限「排除されないためにやってはいけないこと」を肝に銘じておく必要があろう。今回の調査の結果、「二度と使いたくない店がある」人は全国で4.0%。さらに「過去に利用していたが今は積極的には使いたくない店がある」人を合わせると、18.8%に上る。

「全国の日常の買物人口が5000万人としても200万人以上が「二度と使いたくない店舗」があり、「積極的に使いたくない店舗」を含めると、1000万人が「経験を通して日常生活から排除したい店がある」ことになる。 

「二度と使いたくない」レベルで排除された三大理由は「接客(店員の態度が悪い)」「生鮮食品の鮮度の悪さ(腐っていた)」「暗い・清潔感のない店舗環境」。決して、立地でも価格でもない。寄せられたコメントから浮かび上がってきたことは、小売業が長年心がけてきた当たり前のことばかり。店員に笑顔がない、店員の態度が悪い、トイレが汚い、店舗が不潔、など。

人々の生活を支えるライフラインであるスーパーが、今後排除されない店舗であり続けるためには何をなすべきか。

他業態との共存を図り、活き活きとした店舗を維持していくためには、オールマイティであることを目指す以前に、来店顧客の細かなニーズに真摯に向き合い、個別店舗の商圏特性を活かした店づくりを目指し、当たり前品質の維持、向上に努めることである。生鮮食品の品質維持、向上はスーパーにとっての生命線であることは言うまでもない。

打田 光代
株式会社ショッパーファースト 代表者
株式会社ユーティル 代表取締役、エンバイロセルジャパン株式会社 代表取締役などを経て当社設立。
生活者、ショッパーに特化した各種リサーチを一貫して実施。日本マーケティングリサーチ協会、監事・理事を歴任。